他にはない神奈川のニュースを!神奈川新聞 カナロコ

  1. ホーム
  2. ニュース
  3. カルチャー
  4. 文化・科学
  5. 「神奈川文芸賞2022」作品募集 U-25部門新設

「神奈川文芸賞2022」作品募集 U-25部門新設

文化・科学 | 神奈川新聞 | 2022年1月4日(火) 16:30

「神奈川文芸賞2022」の作品を募集します。部門は「短編小説」「現代詩」、作品の受け付けは4月1日から6月末までです。審査員は、「短編小説」部門が若手をリードする小説家の朝井リョウさん、「現代詩」部門は立教大学教授で後進の育成にも当たる詩人の蜂飼耳(はちかいみみ)さんが務めます。

 同賞は、神奈川新聞社が過去50年間にわたって開催してきた「神奈川新聞文芸コンクール」を刷新したものです。応募資格を県外在住者にも広げ、神奈川にちなんだ作品を募集テーマとすることで、「文学が生まれる場所」としての神奈川を全国に打ち出し次世代の書き手を発掘。新鮮で個性的な感性が集う場を目指します。

 今回は、上記2部門に加え、25歳以下を対象とした「U─25部門」を特設します。三題噺(はなし)形式で創作に取り組んでいただく同部門は本紙読者らによる審査を行います。応募方法は公式ホームページへ。

※以前の「文芸コンクール」から応募要項が刷新されています。ご注意ください。

※同賞は隔年開催を予定しています。

百万分の一の書き手に|朝井リョウさんインタビュー

─作家をめざすきっかけとなった出来事はありますか。

 本好きの三つ上の姉にくっつくようにして図書館に通っていたこと、小学六年生時の担任の先生に「あなたの日記は小説を読んでいるみたいな気持ちになる」と言われたこと等、自分に読むことや書くことを続けさせてくれた出来事は幾つかありますが、具体的に小説家というものを意識するようになったのは綿矢りささんと金原ひとみさんが芥川賞を受賞されたときです。こんなに若い人でも活躍できる世界なんだ、と、烏滸(おこ)がましくも自らに引き寄せてしまいました。

─表現者としてのターニングポイントとなった、自身の作品はありますか。

 最新の作品になってしまいますが、「正欲」です。これまでは執筆前の段階で最初から最後までプロットを決め込んで書いていたのですが、「正欲」では初めて執筆中に物語が輪郭を変えていったというか、途中、物語自身が呼吸をしてぶわっと膨らんだような感覚を抱きました。私は小説を自分の言いたいことを言うための道具のように扱ってしまうところがあるので、もっと自分の存在感を消して、小説のほうに身を預けられるようになりたいと感じています。

新潮社、1870円

─作品を執筆する時のこだわりはありますか。

 正直、今はありません。特に最近は、むしろそのようなものを持ちすぎてしまうと自分を縛ってしまうことを実感しているので、「何でもあり」という気持ちで書くことを心がけています。

─文章表現を磨くためのトレーニング方法はありますか。

 幼少期に日記を書いていたことが知らず知らずのうちにトレーニングになっていたような気がしています。毎日二百字程度の日記が宿題として設定されていたのですが、小学生の毎日なんて変化がありません。

新潮社、693円

 案の定すぐに書くことがなくなったものの、ページを空けてはならないという謎の義務感から、景色の描写等でマス目を埋めるようになっていったのです。それがいつしか私にとってのトレーニングになっていたのだと、今思います。

─文芸創作に取り組む若者たちへのメッセージをお願いします。

 私たち全員、言葉を使えて想像力を持っています。だから原理上、全員が文芸創作をすることができます。だけど作家と他称される人は少ない。何故(なぜ)か。それは才能の有無ではないと私は考えます。私たち全員という分母は、「書き始める」で百分の一に、「書き終える」でその百分の一に、「書き終え続ける」でさらにその百分の一に、勝手に絞られるのだと思います。書き終え続ける、この一点のみを果たせば、いつしか百万分の一の書き手になれるのではないかと思っています。質はひとまず置いておいて、とにかく書き終え続けること。一緒にがんばりましょう。

●1989年 岐阜県生まれ ●2009年 「桐島、部活やめるってよ」で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー ●2013年 「何者」で第148回直木賞受賞 ●2014年 「世界地図の下書き」で第29回坪田譲治文学賞受賞 ●2021年 作家生活10周年記念の作品「正欲」を発表。横浜市などを舞台に人間の欲望のあり方を描き第34回柴田錬三郎賞を受賞  ●その他「チア男子‼」「星やどりの声」「もういちど生まれる」「少女は卒業しない」「スペードの3」「武道館」「世にも奇妙な君物語」「ままならないから私とあなた」「何様」「死にがいを求めて生きているの」「どうしても生きてる」など著書多数。

言葉とぶつかりあって|蜂飼耳さんインタビュー

─詩人をめざすきっかけとなった出来事はありますか。

 高校生のころ、横浜駅の書店でなんとなく「宮沢賢治詩集」を手に取って「春と修羅」を読んだ時、大きな衝撃を受けました。聴覚的な要素と視覚的な効果が一つになり、特別な時空が立ち上がってきたのです。子どものころから本を読むことやお話を作ることが好きでしたが、その時「自分がやりたいのは詩なんだ」とはっきり感じました。

 詩を書くことは「職業」「仕事」という言葉に収まりきらない、生きることの全てだと思っています。私だけでなく、詩作をする人はみんな、詩というものが人生の軸になっているのではないでしょうか。

 詩の世界では、言語と激しく衝突する瞬間に、生きていることの実感があふれ出ます。死ぬまで詩と離れることはないと思います。

─表現者としてのターニングポイントとなった、自身の作品はありますか。

 詩集「食うものは食われる夜」の表題作が書けた時、これまでとは違う手応えを感じました。1時間程度で書いた詩なのですが、自分の意図を超えてできた作品です。人間の生命と人間以外の生命が重なるイメージが、詩の中から出てきた感触がありました。

思潮社、2200円

─作品を執筆する時のこだわりはありますか。

 すでに行ったことを自己模倣的に繰り返さないことです。一度通った道を、同じように通過することはしたくない。結果的に似た場所にたどりついてしまったとしても、言葉で別の場所に行き、触れたいと思っています。

─表現を磨くためのトレーニング方法はありますか。

 学生たちにアドバイスしているのは「よく読み、よく書く」ということです。本を読んで心を動かされたら、それはなぜなのかを観察すること。改行の仕方、句読点の付け方、人称の使い方、漢字かひらがなか。著者が作品の中で何を行っているか見ることが大切です。そして自分が書いている作品がどんなものであるか見つめ、検討することを習慣化することが創作の土台になると思います。

思潮社、2420円

─文芸創作に取り組む若者へのメッセージをお願いします。

 私も、県内を舞台にした作品として、みなとみらいの観覧車が題材の「太陽を持ち上げる観覧車」(「隠す葉」に収録。2007年、思潮社)や「丹沢」(「顔をあらう水」に収録。15年、思潮社)などを書いたことがあります。神奈川にはまだ知られていないすてきな場所があると思うし、県外に住んでいる人が書く、神奈川が舞台の作品も楽しみです。季節を巡って想像するとイメージが膨らみますよ。

 創作の楽しさは、執筆をしている時や完成した時だけでなく、構想を練り、想像を膨らませる時間にもあります。書くことによって新しい景色が見えてくるはず。まずは心のままに表現してみてください。

●1974年 神奈川県生まれ ●2000年 詩集「いまにもうるおっていく陣地」で第5回中原中也賞を受賞 ●2006年 詩集「食うものは食われる夜」で第56回芸術選奨新人賞受賞、神奈川文化賞未来賞受賞 ●2007年 詩集「隠す葉」発表 ●2012年 絵本「うきわねこ」(絵/牧野千穂)で第4回MOE絵本屋さん大賞第2位、第59回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞 ●2016年 詩集「顔をあらう水」で第7回鮎川信夫賞受賞  ●小説、翻訳など著書多数。2020年度から立教大学文学部教授を務める

 
 

文芸コンクールに関するその他のニュース

文化・科学に関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

カルチャーに関するその他のニュース

アクセスランキング