昨年1月に火災で全焼したJR大船駅近くの活魚料理かんのん(鎌倉市大船1丁目)が今月末、再オープンする。地域住民から「観音食堂」と愛される老舗だ。深夜の火災から約1年4カ月。社長を務める武井大次さん(53)と姉の鈴三さん(60)は「常連客に支えられてここまで来られた。初めは、満足できる料理は提供できないかもしれないがやりきりたい」と話している。
火災は昨年1月24日の午後10時50分ごろ発生。隣接する営業時間外の和洋菓子店から出火し、5時間半後に鎮火した。けが人はいなかったものの、同店と観音食堂の2棟が全焼した。
出火当時、鈴三さんは店内に1人でいた。外の物音に気付き、店外へ行くと隣から出火していた。「ぼや程度で全焼するとは思わなかった」と当時を振り返る。火災の一報を受けた大次さんは、当時横浜市瀬谷区におり、車で30分ほどかけて店まで駆け付けた。消防団員でもある大次さんは「誤報もあるし、ぼやで済むのではないか」と考えながらハンドルを握っていたという。店舗の2階で暮らしていた鈴三さんは、着のみ着のままで焼け出され、真冬の車中で一晩過ごした。
大次さんは「ここ数年で両親や102歳の祖母が亡くなり、店舗まで失うなんて」と肩を落とした。
同食堂は1961(昭和36)年、先に開業していた鮮魚店に併設する形で開店。建物は昭和の時代のもので、鈴三さんは「当分は建て替えをする予定もなく、耐震補強やリフォームしながら大切に使ってきた」と語る。
一晩で職場を失った大次さんと鈴三さん。鈴三さんに至っては、住居まで失った。鈴三さんは横浜市内の知人宅に身を寄せた。子どもが4人いる大次さんは「とにかく働かなきゃいけない」と、以前勤めていた水産物の卸売会社で急場をしのいだ。
閉店を選ばなかった理由とは
大船の「観音食堂」、5月末再オープン 22年1月に全焼
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今月末に再開する「観音食堂」の外観=鎌倉市大船1丁目 [写真番号:1160865]
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火災で全焼した「観音食堂」=2022年1月25日午前9時半ごろ、鎌倉市大船1丁目 [写真番号:1160866]