遠出してローカル線に乗るなら、なるたけ先頭車、それも前面展望の利く座席がいい。だいたいは国土地理院の5万分の1の地形図を携える。それとの見比べが楽しい。大地のまにまに走る。そのための勾配や曲線、隧道や橋梁。昔の鉄道敷設は自然と仲がいい。
ときには珍客に出くわす。被災地・気仙沼に出掛けた帰途の大船渡線。猊鼻渓―陸中松川間。それほどの山間ではないが、茂みからひょいとばかりに線路を横切ったものがいる。気動車がピキーッと叫ぶ。どうもキハ100の警笛はヒステリックだ。
陸中松川着(写真)。数人の乗降が終わったのを見はからって運転士さんに聞いた。やっぱりカモシカである。乗っていた列車は「快速スーパードラゴン」。しょーもないことをいえば、好奇心豊かな森の主も竜にぶつかってはひとたまりもなかろう。
せんだっては関西本線。島ケ原―伊賀上野間。こちらは木津川の縫う深山をゆく。川霧の込める眺めは幽谷の趣もある。茂みから出たのはイノシシ。猛進ではなく悠々の体で線路を渡る。気動車がプオーと応じる。キハ120の警笛はどこか優しい。乗客がウリ坊の後ろ姿を目で追う。
伊賀上野での客扱いが済んだところで聞いた。運転士さんは白い歯を見せて「ああ、あんなの、しょっちゅうですわ」。忍びの山里。出没もところ知らず。鉄路との共存、よきかな。(F)