寒気に包まれた北国の停車場の一角。立ち食いそば店から湯気が上がり、だしの香りが辺りに漂う。麺をすする男たちの背中は一様に丸い。どこからか飛んできた風花が降りかかる。「おまちどうさん」。おばちゃんの親指がつゆの中に浸っている…。
「ご当地『駅そば』劇場」(交通新聞社新書)が面白かった。読了後、駅の立ち食いそばを「駅そば」と表記する習いが、どこまで一般化しているのだろうかと思った。ちなみに「かながわ定食紀行」で神奈川新聞と縁が深い今柊二さんは立ち食いそばにも造詣が深く、「立ちそば大全」(竹書房)という著書もある。今さんは同書で駅構内のみならず街のスタンド&セルフサービス形態のそば店まで幅広く含め、「立ちそば」と書き表している。「食い」の2文字を省略しているのはなぜか。一般的な呼称なのか。今さんにお会いしたら伺ってみたい。
小欄は鉄道にかかわるテーマで書くのが約束であるから、「駅そば」にしぼりたい。旅情を誘うのは、やはりホーム上の店舗である。構内のゆったりした店舗の方が落ち着くという向きもあろう。改札を出ても同じ建物内なら駅そばなのか。駅から近い店を同ジャンルに含めていいとすれば、半径何メートルまでか、などと疑問は尽きない。
いったい何杯の駅そばを食べてきたのだろう。今はなき東急線・高島町駅のそばを朝食代わりに食べていた時期もあった。都内を足場に仕事をしていた時代は、帰りによくJR品川駅の常盤軒に立ち寄ったものだ。
駅そばに関する本格的?な考察は次回以降に譲りたい。(N)